愛媛大学大学院 
農学研究科

作物学研究室

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研究内容

ハダカムギの生産性向上を目指した技術の確立

 ハダカムギは、愛媛県が作付け面積と生産量が30年以上日本一の主要農産物です。その多くは麦味噌に用いられ、瀬戸内地方の麦味噌文化を育んできました。近年は、はだか麦に多く含まれる機能性食物繊維(β-グルカン)が注目されていることから、生産量の増加と利用拡大が期待されています。しかし、ハダカムギは湿害に弱いため、播種時期(11月中旬)に降水量が多いと、初期生育が優れなかったり、播種を12月に遅らせることになり、収量が減少します。そこで、バイオマス生産や光合成産物の分配に着目して、遅まきした場合のはだか麦の生産性改善について取り組んでいます。
キーワード:ハトムギ、栽培、群落構造

異なる条件で栽培したハダカムギの様子

 播種の時期、栽植密度、施肥条件によってハダカムギの様子が全く異なるだけでなく、収量や品質も変わってきます。したがって、これらの栽培条件を検討することは、大変重要です。

針金による茎識別の様子

茎1本1本に印をつけ、1つの茎単位から、圃場全体の収量や物質生産を捉えようとしています。

収穫前のハダカムギ(左)とハダカムギの穂と原麦(右)

 ハダカムギは収穫に近づくと圃場が金色になってきます。また、ハダカムギの穂はその名の通り皮(内外穎)に包まれておらず、はだかの状態で実るため、手でも簡単に原麦を取り出すことができます。この性質から、ハダカムギは加工が容易となっています。

ハダカムギの低硝子率化に向けた研究

 ハダカムギは、原麦内部が透明で硝子のように固くなる「硝子化」によって品質が低下します。この硝子化の指標となる値を「硝子率」といい、ハダカムギの品質向上のため、硝子率を低くすることが重要です。本研究室では、播種日、施肥条件、播種量等の栽培条件や降雨等の環境条件と硝子率との関係を調査し、ハダカムギの品質向上に取り組んでいます。
キーワード:ハダカムギ、硝子率

ハダカムギの粉状質粒、半硝子質粒、硝子質粒の原麦の断面

ハダカムギの原麦には、白く柔らかい粉状胚乳と透き通って固い硝子状胚乳があります。その硝子状胚乳の割合によって原麦の種類が分けられ、硝子状胚乳の割合が多いほど品質が低下します。

顕微鏡観察から硝子化の要因を解明する

 ハダカムギの品質において重要な硝子化ですが、その発生要因は明らかとなっていません。本研究室では、この硝子化の要因を形態観察から明らかにしようという試みを行っています。ハダカムギの原麦内部には、デンプンやタンパク質が「顆粒」として敷き詰められているため、原麦の見た目や硬さが変化する際には、これら顆粒の形や量に何らかの変化が生じていると考えられます。そこで原麦内部を光学顕微鏡や電子顕微鏡によって観察することで、この顆粒の変化の機微をとらえ、硝子化の要因解明に取り組んでいます。
キーワード:ハダカムギ、形態

光学顕微鏡によるハダカムギ原麦断面の形態観察

粉状胚乳と硝子状胚乳の光学顕微鏡写真

 粉状胚乳は、青紫色のデンプン粒の間に白い隙間があるが、硝子状胚乳では、デンプン粒の間は青で染色されたタンパク質で敷き詰められている。

ハダカムギ変異系統コレクションを用いた有用形質の作出

 愛媛大学では、TILLING 法と呼ばれる技術を用い、マンネンボシ変異コレクション約8000 系統を作成しました。これらの系統は1つ1つ異なる形質(例えば、草丈や茎数が異なったりです)を持つため、今後ハダカムギ生産を変える画期的な系統が見つかるかもしれません。そこで本研究では、これらの中から有用な形質を持つハダカムギを探るべく、各系統を栽培、調査しています。5000系統に及ぶハダカムギを播種から収穫まで栽培し調査するのは大変な作業ですが、新たな品種作出にもつながる夢のある研究です。
キーワード:ハダカムギ、 TILLING 法、遺伝資源

各系統の播種の様子

 沢山見える赤と黄色のラベル一つ一つが異なる系統の種子が植えられていることを示しています。

収穫時のハダカムギ

 系統によって見た目が異なることが見て取れます。

ハトムギの生産性向上に向けた栽培技術の確立

 ハトムギの子実はヨクイニンと呼ばれ、古くから漢方として用いられてきました。利尿鎮痛作用やいぼとりへの効果が知られています。最近は肌のくすみへの効果も報告されており、化粧水や石けんなどへの用途が広がっており、生産量の増加が期待されています。子実成長のためには、葉で作られた光合成産物の子実への輸送が不可欠です。しかし、ハトムギは複雑な構造をしているため、光合成産物の穀実への分配について明らかになっていません。そこで、ハトムギの収量構成に関する詳細を光合成能力や光合成産物の分配に着目して明らかにしながら、生産性増加に向けた栽培技術の確立に取り組んでいます。
キーワード:ハトムギ、栽培技術、群落構造

出穂期のハトムギ圃場

 ハトムギは大きいものでは2 mを超えるとても大きな体をしています。写真の右と左では栽植密度が異なるため個体の形に違いがあることが見て取れます。

成熟期のハトムギ(左)とハトムギの穀実(右)

 ハトムギはジュズダマと近縁で、そっくりな見た目をしています。しかしその外殻はジュズダマよりもろく、潰しやすいことが特徴です。

ハトムギ穂の構造

 ハトムギの穂の構造は複雑で、鞘状苞からは穀実が展開するだけでなく、新たな鞘状苞および葉身も展開します。

ハトムギ調査の様子

 本研究室では、オプトリーフと呼ばれる光量を測定できるフィルムや層別刈取法によって群落構造から収量や物質生産を捉えようとしています。

ハトムギはなぜ乾燥によわいのか?

 ハトムギは乾燥に弱く、夏に雨が少ないと収量が低下し問題となります。この要因に関する研究は少なく、解明に至っていません。ハトムギは、C4型光合成というイネやダイズ等のC3型光合成と比べ複雑な光合成代謝を行っているため、乾燥に弱い要因も複雑であると考えられます。本研究では、水ポテンシャル、光合成速度、電子伝達速度、C4やC3光合成代謝関連酵素の活性など、網羅的解析によってこの要因を解明しようと取り組んでいます。
キーワード:ハトムギ、乾燥ストレス、光合成、酵素活性、C4植物

通常条件と乾燥条件で栽培したハトムギ

 右のハトムギは水分欠乏により葉が巻いていることがわかります。このような状態になると、光合成がうまく行われず、収量が低下します。この要因については、明となっていません。

ハトムギにおけるC₄光合成回路の概要と調査部位

 C4光合成では、葉肉細胞におけるCO2の一次固定、維管束鞘細胞における脱炭酸と再固定よって、カルビン回路周辺のCO2を高濃度にすることで高い光合成速度を実現しています。これらの複雑な機構を網羅的に調査することで、ハトムギが乾燥に弱い要因を研究しています。

地球温暖化によるイネの収量減少を抑える

 地球温暖に伴う気温の上昇によって、日本の主食であるイネに様々な問題が起きてきています。その中で高温不稔は、高温によって受精が妨げられ、イネが実らなくなる現象です。この高温不稔が発生すると、イネの収量が大きく減少するため、今後解決しなければならない重要な問題と言えます。近年、イネの品種開発によってこの問題解決が図られていますが、私は現在普及している「コシヒカリ」等の既存品種でも施肥の方法を工夫する事でこの高温不稔を防ぐことができないかと考え、そのメカニズムの解明も合わせて研究を行っています。
キーワード:イネ、高温不稔、窒素追肥

通常の稲穂(左)と高温によって不稔が発生した稲穂(右)